かなたむんむんブログ

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堺市図書館論争 まとめと個人的見解 後・BL問題編

前編からのつづきです。
前編の最後で、「問題がこれだけなら、ここまでの論争にはならなかったのだろう」と書きましたが、
実際にこの話題は、10月には一度おおむね終息していたように思われます(はてブ参照)。
それではなぜ、11月の今再燃しているのか。
まずはその経緯を追います。

事の発端2

上で終息・再燃という表現を使いましたが、実際は堺市の図書館が前章で述べたような対応をとったところで、
根本的には何も問題は解決していません(むしろ良くない方向へ…?)。
そして先日11月4日に、
この問題に対する図書館の対応は性的指向による差別につながると、
BL図書廃棄の差し止めを求める住民監査請求が提出され、
そのことが翌日5日の新聞に載ったようです。
こちらでその記事の内容と住民監査請求の見出しが確認できます。
「ボーイズラブ」はだれにとって有害で不適切なのか?/新聞各紙の報道 - みどりの一期一会


そしてこの新聞記事からネット上の朝日新聞ニュースにも波及。
http://www.asahi.com/national/update/1105/OSK200811040115.html


遂にはITmedia(というかZAKZAK?)でゴシップ化。
Expired

その中身もスゴイ。表紙に描かれるのは一見少女漫画風イラスト。


だが、ひとたびページを開くと本番も変態セックスも当たり前のキワドイ絡みがズラリ。シチュエーションもガテン系から気弱なサラリーマンまで多種多彩。あらゆる男同士の性生活を描く。

……。
BLレーベルから出版されたBL小説を読んだことがない私でも、これはひどいと言いたくもなります。
内容はもちろん、そもそもニュースの主題が変わっています。
今回は住民側から廃棄の差し止めが求められたというのに、そのことは一切触れていません。
「こーんな本が図書館にあるんですよぉ」という記事になっています。


そしてこれらのニュース???記事をキッカケに、今回早くから注目を集めたエントリ達がこれら。
このITmediaの記事に対する、BL小説読者の立場からの怒りの声です。
http://d.hatena.ne.jp/blue_heaven/20081110/1226323231
  こちらの方は、ITmediaの記事が出る前に図書館問題についても書かれています。
  http://d.hatena.ne.jp/blue_heaven/20081105/1225903206
BLとBL読みを貶めるのもいい加減にしてもらいたい。 - __ScrapBook of Plumber
  補足とレス - BLとBL読みを貶めるのもいい加減にしてもらいたい. - __ScrapBook of Plumber


さて、もう一度確認しておきたいのは、今回の論争は、前回の市民の声ではなく、
上のITmediaの記事自体に対する反応が契機になって起こっているということです。
もちろんそのことは彼女たちのエントリを読めばわかることなのですが。
どうもこれらに対するブックマークコメント等を見ていると図書館の話題を持ち出す人が多く、
元エントリからITmediaの記事に飛び、「BLを図書館に置く置かないの話」だという思い込みから、
「BL小説を図書館にとかまだ言ってんのかw腐女子必死すぎm9(^Д^)プギャー」
という印象を持っている人が、少なからずいるのではないかと思えるのです。
私自身も、タイトルだけ見てた頃にはそういう感覚がありました。
でもこの話、まずは9月の論争で「図書館の在り方」について知っておかないと、
話がどんどんとあさっての方向に行ってしまうんですよね。


まず今回の件は、

  • 図書館に過激な性描写を扱う本を置くことの是非(9月の論点)
  • BL小説はBL小説であるということによって排除されないといけない本なのか(今回11月の論点)

という2つの問題を内包していてるということ(本当はさらに大きな問題を持っていると思いますが)。


9月の時点では、後者の事柄に触れられつつも、
まず大前提である前者の問題について、図書館の理念に基いた意見が多く見られました。
そして上のような経緯によって、今回11月は、後者の問題の比重が大きいです。
とりあえず、「腐女子必死すぎw」なのは、決して図書館に置いてほしいと必死なのでは、ありません。


私自身、いろいろな記事を逆行して追っていってようやくこの流れが掴めた気がしました。
9月の騒動を追いかけていなかった人は、まずはぜひ前編でご紹介した記事に目を通してみてください。


現在の私の考え

さて、これで現在までの流れが整理できたと思います。
(間違ったとらえ方をしている部分あれば教えてください…)
ここまでで、まとめとしては終わりなのですが、腐女子のはしくれとして、
引用ではなく今私がどう考えているのかも拙いなりに書いてみようと思います。


その前に、話が本題からかなり逸れますがせっかくの機会なので、
腐女子について、せめてここまで読んでくださった方だけにでも知っておいてほしいこと、がいくつかあります。


まず大前提で、女性オタク=腐女子では、ありません。
漫画やアニメが好きでも、同性愛作品に対して激しい嫌悪を示す人は山ほどいます。
同性愛を否定することの是非はさておき、
そういった非腐女子女性オタクの方を「ホモが好きなんだろ」と好奇の目で見ないでください。
百歩譲って、腐女子がそういう目で見られることは現状では仕方のないこと、だとしても、
そうでない女性オタクの方がそんな目にあうのは本当に理不尽です。


ただ前向きに考えれば、この女性オタク≠腐女子、という事実は、
最近になって一時期よりは、オタクに近い立場の人には浸透しつつあるような気もします。
そこでもうひとつ、知っておいてほしいことを書きます。


それはいわゆる昨今の「ボーイズラブ作品」を好む腐女子と、
パロディ同人…既存のキャラクターを使った「二次創作作品*1」を好む腐女子は、
かなりの割合で重なっていない、つまりどちらかしか手に取らない、ということです。
どちらも好き、という方の中にはその差異に無自覚な方もいますが、
それは一握りの方だけのはずです。
実際上のエントリを書かれた方は二次創作作品は読まないと書いておられましたし、
私はついこの間まで約10年、二次創作作品しか読んできませんでした。
今はオリジナルのBL漫画も読んでいますが、相変わらずそれぞれは全く別物だと思っています。
その差異については本題から逸れすぎるので今回は触れませんが、
二次創作読みの腐女子の中にはオリジナルのBL作品を嫌悪する人も、おそらく結構な割合います。


ややこしい生き物達でどーもすみません、と言いたくなりますが、
とにかく、主義主張の異なるオタク同士が仲が悪いのと同様に、
(むしろそれ以上に)腐女子間の溝は深いです。
このことだけでも、腐女子絡みの話題に触れる際に知っておいて頂けると嬉しいです。
もちろんその事が抱える問題も大きいと思いますし、また、こういった事情が、
"腐女子語り"がなかなかうまくいかない原因となっていると思います。


【11/26追記】
上の腐女子話に関しては、いくつかご指摘頂いたので、補足訂正エントリを書きました。
ご指摘ありがとうございます〜 - 彼方むんむん
自分で『"腐女子語り"がなかなかうまくいかない』ことを実証してしまった形になりました(汗)



さて、以上のように長々と腐女子について語ってしまうことからもおわかりだと思いますが、
私もITmediaの記事は不快です。
実情を知らない人、いや、知ろうとしていない人が勝手な自分の意見で書いているからです。
それは、オタクがメディアにおもしろおかしく取り上げられて感じる不快感と同じです。
というか、オタクが揶揄されるのは腐女子も不快です。腐女子もオタクです。
別に腐女子はキレイな生き物だなんて思っていませんし、男性向け作品と腐は違う、とも思っていません。
一部そういう考えを持っている人もいることは認めますが、あくまで一部です。
「処女厨」がオタクの一部にすぎないことと同じです。


上のエントリを書かれた腐女子のお二人も同様だと思います。
確かに、反論の方法として賛成できない部分もありますが、自分の愛するものを守るというのは難しいです。
BLはポルノじゃないっていうの?という話になってしまったのも、
ライトノベルは文学だ!と言って、結局はライトノベルというジャンルを貶めてしまう問題と、構造は同じだと思います。


上エントリに対する別の(元)腐女子の方からの指摘エントリも紹介しておきます。
元BL読みとして言いたい事がある。 - れとろ・まにあ
続・元BL読みとして(ry:追記あり - れとろ・まにあ



次に、BL小説の存在について。
今回のように、BL作品が非難の対象になる理由の根幹には、大きく2つの要素があると思います。


まず一つは同性愛に対する偏見です。
そもそもの「市民の声」にも、同性愛に対する嫌悪が満ち溢れています。


これに対して、私は、同性愛も異性愛も等しく扱われるべきだ、と思っています。
正直言って、自分の中には無自覚な差別意識は無い!と胸を張れる程の自信はありませんが、
それでも、自分が腐女子だから云々を抜きにして、
私は、同性愛に限りませんが、そういった差別イクナイ!と思っています(言葉足らずすぎる…)。
その点で、あの「市民の声」の文章は非常に問題だと感じます。
それにそのまま従わざるをえないという図書館の構造にも、もちろん問題があるでしょう。


また、もうおわかりかと思いますが、腐女子向け作品は、こうして社会的に取り沙汰された時、
腐女子達自身ではなく同性愛者の方々に大きなとばっちりが及んでしまう、という、
非常にやっかいなねじれの構造があります。
これによって、同性愛者の方からも、腐女子作品が非難されることがあります。
「BLはファンタジー(笑)」では済まない、という点が、確実にあると思いますし、
同性愛者さんに対して後ろ暗い気持ちを抱えている腐女子も多いです。
また、腐女子の中には、同性愛に対する間違った「理解」や思い込みが存在していることや、
一歩違えばBLが逆に異性愛主義を強める方に向かうこともある、という指摘もあります。



さて、非難の元にある要素のもう一つは、男性向け他、これまで規制の矢面に立ってきた作品からの視線です。
それらの作品はこれまでも常に非難・規制の危機にずっとさらされてきているわけで、
だから、「作品に触れたことがないのに、BL=ポルノと捉えないで」という言葉から、
BLだけそんな言い訳して規制逃れをするな、という話にすり替わってしまうのだと思います。


また、そこにはBL(やそれ以前のJUNE系等の)作品の存在がここのところ一気に可視化されたことや、
一部の少女漫画*2の過激さが「これが少女漫画!?」と話題になったこと、
などの影響もあるかと思います。
「BL小説など(広い意味での)女性向け作品が、
 その存在のマイナーさや世間のイメージを武器に規制をかいくぐろうとするな」というわけです。


では、BLの規制はどうなっているのでしょうか。本当に野放しなのでしょうか。
そもそも、本の成人向け指定は都道府県の指定と出版社からの自主規制で成立しています。
有害図書 - Wikipedia
まず、現在BL作品がこの選定の審査を受けていないわけではない、ということ。
あと次の記事は興味本位が目立つものなのであまり載せることに気が進まないのですが、
一応インタビュー?が含まれていたので紹介。
【ファンキー通信】ボーイズラブ作品は何で囲われてないの? - ライブドアニュース

世間は男性向けのエロに対し、女性向けのエロには寛容なの??

「そんなことはないでしょう。現にレディスコミックも何冊か指定を受けていますよ。原則的に基準に触れる表現が1ページでもあれば、不健全図書として指定することになっています」(東京都青少年・治安対策本部健全育成課)


また、BL作品が規制される際に問題となる基準は、
「猥褻物」にあたるかどうかということになると思うのですが、
これが曖昧なのことも、これまでもずっと言われてきたことでしょう。
何かの肥やしに(補説)

 ポルノ、つまり猥褻な作品かどうかという基準って凄く曖昧なんですよね。たとえばポルノを巡る事件で必ず出てくるわいせつ物頒布罪、つまり刑法175条にしても「わいせつな文書、図画、その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらを所持した者も、同様とする」とされてるだけで猥褻そのものの規定はないわけです。


一方、出版社側の自主規制に関するお話。
2008-11-11 - さて次の企画は



こういった有害図書指定の基準は確かに非常にあいまいなこともあって、
これらの情報を並べたからといって、
「これまでずっと、広義の女性向けの作品が男性向け作品と同等の基準で選定されていた!」
と主張できる根拠は、私にはありません。
ただとりあえず、
現在進行形で、BL作品は正当な選定を受けていない!
つまり全てのBL作品は規制の目をくぐりぬけている猥雑なものなのだ!
というイメージは、間違っていると言ってもよいと思います。


また、このあたり、『BLは規制が緩いんだからポルノだ!』という視点と、
そもそも『同性愛が人目については(存在しては)いけない!』という視点、
あと『女性が破廉恥なものを見るなんていけません!』等々、
さまざまな視点が混同されがちな気がするのです。


でも、その中の「BLだけ規制逃れしようとするなよ」という意見に対しては、
作品は違えど同じように"好きなものを無闇に規制されることへの危機感"、を抱いている者同士で言い合う、
という悲しさを感じます。
やっぱり「腐女子は男性向け作品をバカにしている」とかそういうイメージが根深いのでしょうか…。
むしろ手を取り合って不用意に『規制せよ!』という意見に向き合っていくべきなんだと思うのですが。


そして、この一件はそういったはてな内で注目されがちな「オタク」の問題以外の面でも、
やはり大きな問題・危険性をはらんでいるようで…
今回の件は、腐女子作品への規制を求めるというよりも、
むしろ同性愛排斥の意志が大きく働いているのかもしれないっぽいです。
こちらのコメント欄に、そういう話が書き込まれていますのでご参考にしてください。
BLとBL読みを貶めるのもいい加減にしてもらいたい。 - __ScrapBook of Plumber


個人的見解・まとめ

以上のことから、最後に再び図書館問題としてこの話を捉えてみると、
私の意見としては、


まず、図書館に置く、置かないについては前編で述べたように、
物理的に許されるのであれば、あらゆる表現の蔵書が認められるべきだと思います。
私は「情報提供の場」であろうとする図書館の姿勢を支持します。
異性愛・同性愛問わず、エログロであっても、表紙がマンガ絵であっても。
もちろん全ての本を全ての図書館に置くことはできませんし、
市民サービスとして人気不人気は考慮しないといけないにしても、
図書館が前述の理念に基づいて存在する限り、
その大前提として基本は出版数に応じたジャンル比率によって選書するべきではないかと考えます。


次に、それを閲覧室に並べるか否かについては、「ゾーニング」の話が絡んでくると思います。
今回いろいろ考えてみたのですが、
私は「ゾーニング」という考えには、基本的に賛成です。


しかし、やはりゾーニングする対象の線引きが難しいこと、
また図書館が自己判断で開架するしないを選別し、
不用意なゾーニングを行うことにも、問題が含まれると思います。
(だから苦肉の策としてジャンル一括扱いなのでしょうが)
普通に本屋で堂々と並べられている作品が、
図書館では陳列されない、という状況は少し疑問です。
ただ、一部の閲覧室を「公共・教育の場」としそこでの陳列は避ける、
といった方針をきちんと立てる等の対策であれば、納得できる気もします。


一方、例えば「BL作品は閲覧室に置きません」とした場合、
そのゾーニングが、対象ジャンルの隔離、差別の意識に結びつく危険があることも、
考えなければならないと思います。
今回、件の図書館に提出された住民監査請求も、そういったことを危ぶんでのことだと思います。


ゾーニングは「情報の取捨選択」に慣れていない人(つまり経験値の少ない若年者)に対しては、
とても大事なことだとは思います。
だから確かに性描写に関する規制は改善の余地があるのかもしれない。
ただ、私が思う改善とは、R指定のように、段階を細分化する、といったようなことです。
そうして未成年者に対して十分に配慮する状況ができれば、
成年者がその情報の取捨を行うことも容易になるのではないでしょうか。
18禁作品に不快感を感じるのなら、18禁コーナーに入らないという選択をすればいい。
しかしその18禁作品での表現の自由は保障されるべき。
社会的に成熟し、多くの情報を取捨選択できる能力を持つ大人が、
「その情報の存在が不快だ!」ということを理由に規制を求めることは間違っていると思います。
だからそこに、文芸書だからOK、といった芸術性やらなにやらを持ち込もうとすることもおかしい。


あと、これは別の話になって、まぁ言いたいから書くんですが、
性描写・猥褻表現に対する規制よりも性教育の方が大切で、しかも現在圧倒的に不足していると思います。
そのことを脇に置いて、子どもたちに悪い影響を与える有害図書を排除せよ!と言っている人を見ると、
「自分が見たくないからなんじゃないかなぁ」と思ってしまいます。



とりあえず、今回の問題は腐女子、BLに対する問題だけではありません。
全てを混同してしまわず、それぞれの問題について考えていく必要があると思います。
もちろん腐女子がBLを楽しむ権利も奪われていいものではないし、
それは腐女子のBLに限ったことではありません。
また、BLが、
同性同士の恋愛を扱っているから、という理由で排除されることも、
女性が男性同士の恋愛を楽しむのは異常である、という理由で排除されることも、
全力で防いでいかないといけません。


うーん…
ゾーニングに関して他、もっと勉強しないといけない点は多いと思いますが、
もしもこの未熟な文章が、皆さんそれぞれのご意見の参考になれば嬉しいです。

*1:狭義の"やおい"と言えばいいでしょうか

*2:最近はティーンズラブというそうで。