かなたむんむんブログ

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又吉さんの本

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)
 
 
芥川賞受賞の盛り上がりがいまだ冷めやらぬ『火花』・・・

火花 (文春e-book)

火花 (文春e-book)

私は単行本が発売されてから比較的すぐに購入したのですが、繰り広げられる思考の深さとそれを表現する文章のうまさに驚いて、なるほどこれはホンモノだ、評判になるわけだー、と呻きながら、一気に読んでしまいました。
 
その流れや、芥川賞フィーバーもあって、今、又吉直樹『第2図書係補佐』を読んでいます。
これは2006〜2009年の連載コラムをまとめて、2011年に文庫化されたもの。新旧さまざまな文学作品を1作品ずつ紹介していく形式なので、読む前は書評集かと思っていたのですが、むしろ自伝的エッセイ集でした(筆者自ら、緒言で『僕の役割は本の解説や批評ではありません』と明言しています)。
 
そしてこのエッセイがまた、面白い。
 
太宰好きを公言する又吉氏に対して、歳をとってもいまだに純文学の古典的名作や私小説といったジャンルに馴染めない私。読み始めるまでは、彼のおすすめ作品についての文章をどこまで楽しむことができるのかしら?と、半信半疑だったのですが、要らぬ心配でした。
『花火』から遡れば10年近くも前に書かれたものですが、当時からその文章は巧みで、青春時代の思い出、その傍らにあった作品達のこと、そして何より本を読むということ自体への愛情が、繰り返し語られています。
 
 
 
もったいなくて少しずつ読んでいて、まだ読了していないのですが、最初のほうで気に入った描写があったので、紹介しておきます。
 

 十代前半の頃、何故か上手くいかない、もしかしたら上手くいっているのかもしれないけれど満足度は全く無い、いや上手くいっているわけがない、何が? 解らない、何に悩んでいるのかが今一よく解らないのだが、とにかく胸の辺りにモヤモヤとしたものが絶えずにあって、これが無くなればいいのになぁ、と思うのだけれど、一向に無くならず、もう自分は駄目なんじゃないか? とか思っていて、誰にも相談なんか出来なくて、そんな時に古い小説を開いたら自分がいた。そこに自分と同じようにどうしようもない人間がいた。その人達は皆自分よりも歳上だったから、まだまだ可能性はある、生きられる、と思った。
 

(第2図書係補佐『昔日の客』 より)

 

この一節を読んで、私も自分が十代前半だった頃、同じように胸のモヤモヤを抱えつつ、学校の図書館で古い小説を開いたりしていたことを思い出しました。
ただ、私が求めていたものはそこには無く・・・文学少女になり損ねた私は、もっともっとキラキラした非日常の輝きを求め、足繁く駅ビルの本屋のコミック売り場に通い、立派なマンガ・オタク少女へと成長したわけですが。
その後辿った道は違えど、この文章は、当時の図書館の情景を思い出させてくれた素敵な一節なので、お気に入りです。

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その次はこれを読もうかと。